初めて従業員を雇うとき|労働条件・保険・給与で開業者がやること

事業が忙しくなり、初めてアルバイトや正社員を雇うときは、「働き始めてもらってから手続きを考える」では遅い場合があります。求人票、労働条件通知書、最低賃金、労働保険、雇用保険、社会保険、給与計算を採用前から準備してください。

特に、業務委託契約にすれば労働法や保険の手続が不要になるとは限りません。契約名ではなく、実際の働かせ方で労働者かどうかが判断されます。

今日やること

  1. 任せる仕事と必要な勤務時間を決める
  2. 賃金、交通費、残業、休日を含む人件費を試算する
  3. 雇用か業務委託かを実態で確認する
  4. 求人前に労働条件通知書を作る
  5. 労働保険・雇用保険・社会保険の加入条件と期限を確認する
  6. 残業させる可能性があるなら36協定を準備する

本当に雇用が必要か

採用前に、仕事量が一時的か継続的か、決まった時間に出勤してもらう必要があるか、社内で指示・教育するかを整理します。

  • 勤務時間・場所を事業主が決める
  • 仕事の方法を具体的に指示する
  • 本人が仕事を断りにくい
  • 時間に対して報酬を支払う
  • 道具や材料を事業主が用意する

このような実態が強い場合、契約書に「業務委託」と書いても、労働者と判断される可能性があります。外注にする場合は、成果物、裁量、再委託、報酬、経費負担を明確にします。

人件費は給与額より大きい

採用できるかは、月給・時給だけで判断しません。次の費用を年間で試算します。

  • 基本給・時給
  • 時間外・休日・深夜の割増賃金
  • 通勤手当、賞与、各種手当
  • 会社負担の社会保険料・労働保険料
  • 有給休暇、休業、健康診断、安全衛生
  • 給与計算、勤怠システム、採用・教育費

売上が少ない月でも、賃金は定めた支払日に全額を支払う必要があります。少なくとも数か月分の人件費を運転資金へ入れます。

採用にあわせて雇用関係助成金などを検討する場合は、先に起業で補助金・助成金を使う前の注意点も確認してください。

求人票と実際の条件を一致させる

求人時点で、業務内容、契約期間、試用期間、就業場所、勤務時間、休憩、休日、賃金、固定残業代、加入保険などを正確に示します。

「月給30万円」と表示し、実際は固定残業代を含む場合は、基本給、固定残業代の金額、対象時間、超過分を追加支給することを分けて示してください。

労働条件通知書を交付する

労働契約を結ぶときは、労働条件を明示します。契約期間、就業場所・業務、始業・終業、休憩、休日、賃金、退職など、重要事項は書面等で交付します。

2024年4月から、就業場所・業務の変更の範囲、有期契約の更新上限、無期転換申込機会などの明示ルールが追加されています。厚生労働省の最新モデル労働条件通知書を基に、自社の条件へ直してください。

  • 試用期間中と本採用後で条件が違うか
  • 転勤・在宅勤務・他業務への変更範囲
  • 有期契約を更新する基準と上限
  • 固定残業代の内訳
  • 退職・解雇のルール

最低賃金を確認する

最低賃金は、正社員、パート、アルバイト、試用期間などの名称にかかわらず適用されます。地域別最低賃金と特定(産業別)最低賃金の両方が適用される場合は、高い方を確認します。

最低賃金は毎年改定され、都道府県ごとに発効日も異なります。求人を出す日だけでなく、改定の発効前にも賃金を再確認してください。月給制では、対象となる賃金を所定労働時間で時間額へ換算します。

一人でも雇えば労災保険を確認

労災保険は、原則として一人でも労働者を使用する事業に適用されます。パート・アルバイトなど雇用形態は問いません。

一般的な一元適用事業では、保険関係成立届を保険関係成立日の翌日から10日以内、概算保険料申告書を50日以内に提出します。業種により二元適用となるため、労働基準監督署へ確認してください。

代表者や個人事業主本人は、通常の労働者として自動的に労災保険の対象になるとは限りません。中小事業主・フリーランス等の特別加入制度を確認します。

雇用保険の加入条件と届出

雇用保険の対象となる労働者を雇った場合は、雇用保険適用事業所設置届と被保険者資格取得届を提出します。設置届は原則として適用事業所となった日の翌日から10日以内、資格取得届は資格取得日の属する月の翌月10日までです。

2026年時点では、原則として週の所定労働時間が20時間以上で、31日以上引き続き雇用されることが見込まれる人は雇用保険の対象です。ただし、昼間学生、季節雇用などには適用除外・個別ルールがあります。2028年10月1日からは週所定労働時間の要件が20時間以上から10時間以上へ引き下げられ、適用対象が拡大されます。採用時点の最新要件を管轄ハローワークへ確認してください。

健康保険・厚生年金

法人事業所は、事業主だけの場合を含め原則として健康保険・厚生年金保険の適用事業所です。ただし、無報酬の役員しかいないなど、被保険者となる人がいない場合は適用を受けられません。個人事業所は2026年時点では業種と常時使用する従業員数などで扱いが異なります。2029年10月からは常時5人以上を使用する個人事業所の業種要件が撤廃されますが、施行時点で既に存在する従来の非適用業種の事業所には当分の間の経過措置があります。

事業所が適用対象となる場合は新規適用届を提出し、対象となる従業員・役員の資格取得手続きを行います。短時間労働者の適用要件や扶養の扱いも確認します。

残業させる前に36協定

法定労働時間を超える時間外労働や法定休日労働をさせるには、労働者の過半数代表者等と36協定を締結し、所轄労働基準監督署へ届け出る必要があります。届出前の時間外・休日労働はできません。

従業員が一人でも、残業させるなら必要です。過半数代表者を事業主が一方的に指名せず、適正に選出します。協定を出せば無制限に残業させられるわけではなく、上限規制と割増賃金が適用されます。

勤怠と給与計算を始める

  • 出勤・退勤時刻
  • 休憩時間
  • 時間外・休日・深夜労働
  • 欠勤・遅刻・早退
  • 有給休暇
  • 賃金台帳、労働者名簿、給与明細

勤怠は自己申告だけに頼らず、パソコン・入退場・タイムカード等の客観的記録と照合します。給与から税・社会保険料を控除する場合は、控除根拠と納付期限を確認します。

就業規則は10人未満でも作る価値がある

常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則を作成し、労働者代表の意見書を添えて労働基準監督署へ届け出る義務があります。

10人未満でも、休暇、服務、情報管理、ハラスメント、欠勤、懲戒、退職などのルールを作り、周知しておくとトラブルを防ぎやすくなります。厚生労働省のモデルをコピーするだけでなく、実際の勤務制度へ合わせます。

安全と個人情報の管理

  • 作業手順と事故時の連絡先
  • 必要な健康診断・安全衛生教育
  • 顧客情報・マイナンバー・給与情報のアクセス権
  • パソコン・スマートフォン・鍵の返却
  • ハラスメント相談窓口

小規模事業でも、業務中の事故、情報漏えい、ハラスメントへの責任はなくなりません。事業内容に合う保険も確認します。

採用前チェックリスト

  • 年間人件費と運転資金を試算した
  • 最低賃金と割増賃金を確認した
  • 求人票と労働条件通知書を作った
  • 労働保険・雇用保険・社会保険の対象を確認した
  • 勤怠・給与・税の担当と締切を決めた
  • 残業前の36協定を確認した
  • 安全・情報管理・相談ルールを用意した

まとめ

初めて従業員を雇うときは、採用日より前に条件と手続きを決めます。求人票、労働条件通知書、最低賃金、労働保険、社会保険、勤怠、給与計算を一つの予定表へまとめてください。

雇用か業務委託かは契約名ではなく実態で判断されます。手続の遅れや未加入が起きないよう、労働基準監督署、ハローワーク、年金事務所、社会保険労務士へ採用前に相談します。

公式情報

公式情報確認日:2026年8月8日
次回確認予定:2026年10月1日
最低賃金、保険加入、提出先、必要書類は所在地、業種、法人・個人、労働時間、従業員数で異なります。