新NISAのつみたて投資枠は本当に得?政府が推す理由と損失の落とし穴

「政府がこれほどNISAを勧めるのは、本当に国民のためなのか」。そう疑問に思う人は少なくありません。投資には元本割れがあり、政府が勧めているからといって、利益が約束されるわけでもないからです。

結論:NISAは税制としてはかなり有利です。しかし、NISAで買う投資商品まで有利とは限りません。

NISAは「儲かる商品」ではなく、投資で利益が出たときの税金を軽くするための口座です。政府が推しているという理由だけで始めるのではなく、税制上の利点と投資そのもののリスクを分けて考える必要があります。

先に結論を整理

  • NISAは、対象商品の運用益を非課税にする制度
  • 同じ商品で同じ利益が出るなら、課税口座よりNISAの方が税引後の手取りは多くなりやすい
  • NISAそのものが利益を生み出すわけではなく、元本保証もない
  • NISA口座の損失は、課税口座の利益と損益通算できず、繰越控除もできない
  • 政府には、家計の資産形成支援と、家計資金を投資へ回す政策上の狙いがある
  • 非課税枠はノルマではなく、生活を削って埋める必要はない

現在は「つみたてNISA」ではなく「つみたて投資枠」

以前の「つみたてNISA」は、2023年で新規買付けを終了しました。2024年からは、新しいNISAの中に「つみたて投資枠」と「成長投資枠」が設けられています。

項目2026年8月時点の内容
つみたて投資枠年間120万円
成長投資枠年間240万円
年間投資枠の合計併用で年間最大360万円
非課税保有限度額合計1,800万円
成長投資枠だけで使える上限1,200万円
非課税保有期間無期限
制度の期間恒久化
売却後の総枠売却商品の取得金額分を翌年以降に再利用可能

つみたて投資枠だけで、非課税保有限度額1,800万円を使うこともできます。成長投資枠を必ず併用する必要はありません。

売却後に復活するのは、売却時の金額ではなく、取得金額に相当する総枠です。復活するのは翌年以降であり、その年の年間投資枠が増えるわけではありません。使わなかった年間投資枠も翌年へ繰り越せません。

2026年中の現行制度では、原則として利用年の1月1日時点で18歳以上の国内居住者が対象です。2026年3月31日に公布された令和8年度税制改正により、2027年1月1日以後は0〜17歳でもつみたて投資枠を設けられることとなりました。0〜17歳の年間投資枠は60万円、非課税保有限度額は600万円です。2026年分と2027年以降の制度を混同しないようにしてください。

公式確認:金融庁「NISAを知る」

結論:利益が出るなら税制上は得

通常、上場株式や投資信託の売却益、配当、分配金などには、所得税・復興特別所得税と住民税を合わせて原則20.315%の税金がかかります。NISA口座で対象商品を購入し、利益が出た場合、その運用益は非課税になります。

たとえば、投資信託を売却して100万円の利益が出たとします。

口座100万円の利益に対する税負担の概算税引後の利益
課税口座約20万3,150円約79万6,850円
NISA口座原則0円100万円

同じ商品を同じ価格で買い、同じ価格で売るのであれば、利益に税金がかからないNISAの方が有利です。この点に大きな裏はありません。

つまり、投資する商品がNISAの対象で、投資すること自体がすでに決まっており、非課税枠にも余裕がある人にとっては、課税口座だけを使う理由は限られます。ただし、NISA対象外の商品を買う、非課税枠を使い切っている、損益通算を重視するなど、課税口座を使う理由がなくなるわけではありません。

NISAは利益を生み出してくれない

NISAが非課税にするのは、あくまで「発生した利益」です。投資した100万円が80万円になれば、20万円の損失です。NISAだから損失を補償してくれるわけでも、購入価格へ戻してくれるわけでもありません。

投資信託や株式には元本保証がありません。長期・積立・分散投資をしても元本割れの可能性は残ります。長期、積立、分散はリスクをなくす方法ではなく、購入時期や投資対象を分け、価格変動と付き合いやすくするための方法です。

「NISAを始めれば得をする」ではなく、「投資で利益が出た場合、NISAを使っていれば税引後の手取りが多くなりやすい」が正確です。

NISAで損をすると税制上の救済が弱い

NISAには、利益を非課税にする代わりに、損失を税務上利用できないという弱点があります。

NISA口座で生じた損失は、特定口座や一般口座で生じた利益と損益通算できません。翌年以降へ損失を繰り越し、将来の利益から差し引く繰越控除もできません。税務上は、NISA口座内の損失が「なかったもの」とみなされるためです。

たとえば、次の状態を考えます。

  • 課税口座で50万円の利益
  • NISA口座で50万円の損失

二つを相殺して利益ゼロにはできません。課税口座の50万円には、通常どおり税金がかかります。

課税口座で生じた上場株式等の譲渡損失は、一定の要件のもとで配当等との損益通算や3年間の繰越控除ができます。NISAは利益が出たときには強い制度ですが、損失が出たときに有利な制度ではありません。

税務確認:国税庁「株式・配当・利子と税」

なぜ政府はNISAを推しているのか

政府が掲げる目的は、家計の安定的な資産形成を支援し、預貯金に偏っている家計資産を投資へ振り向けることです。家計から投資へ回った資金を企業の成長につなげ、その成果が株価上昇や配当などを通じて家計へ還元される「資金の好循環」も政策上の狙いとされています。

  1. 国民の老後や将来に向けた資産形成を支援する
  2. 現預金として保有されている家計資産を資本市場へ回す
  3. 企業の成長資金を増やし、その成果を家計へ還元する

政府に政策上の狙いがあることと、NISA利用者に税制上の利点があることは両立します。

そのため、「政府が推すから必ず得」「政府が推すから必ず怪しい」のどちらも極端です。政府と投資家の利益が一部一致している制度ではありますが、政府は個人の投資損失を引き受けません。最終的な商品選択と価格変動の責任は、投資家側に残ります。

つみたて投資枠なら何を買っても同じではない

つみたて投資枠で購入できるのは、長期・積立・分散投資に適するものとして一定の基準を満たし、金融庁へ届け出られた投資信託などです。対象商品の一覧は随時更新されています。

ただし、「対象商品だから必ず優良」「金融庁が値上がりを保証している」「何を買っても同じ」という意味ではありません。

確認点商品による違い
投資地域日本だけ、米国中心、先進国、全世界など
資産の種類株式中心、株式と債券の組合せなど
集中度特定国・特定業種へ偏っていないか
為替海外資産では円高・円安の影響を受けるか
保有コスト信託報酬などが高いか低いか
値動き大幅な値下がりでも保有を続けられるか

NISAは税金を軽くする仕組みであり、高コストの商品を低コストに変えたり、集中投資を分散投資に変えたりする制度ではありません。制度選びより、商品選びと継続できる投資額の方が、最終結果へ大きく影響する場合があります。

対象商品確認:金融庁「つみたて投資枠対象商品」

NISAが向いている人

  • 近いうちに使わない余剰資金で投資できる
  • 数か月や数年ではなく、長期間保有するつもりがある
  • 一時的な値下がりを受け入れられる
  • 少額でも定期的に積み立てられる
  • 手数料や投資対象を確認して商品を選べる
  • 相場が下がっても、生活費のために売却する必要がない

年間120万円の枠は、「使わなければ損をするノルマ」ではありません。非課税で購入できる上限です。生活に無理が出るほど投資額を増やすと、相場下落時に売却せざるを得なくなり、長期投資の前提が崩れます。

急いで始めない方がよい人

  • 家賃、食費、医療費、学費など近いうちに使うお金を投資しようとしている
  • 生活防衛資金がほとんどない
  • リボ払いやカードローンなど、高金利の債務を抱えている
  • 投資額が減ることを受け入れられない
  • 価格が下がったら、怖くなってすぐ売却しそう
  • 商品の中身や手数料を確認するつもりがない
  • 政府が勧めているという理由だけで始めようとしている
  • 非課税枠を埋めること自体が目的になっている

NISA口座を開設することと、すぐに大きな金額を投資することは別です。口座を開設しても、少額から始めたり、積立設定を停止・変更したり、購入しないまま待ったりできます。

投資を始める前の順番

  1. 高金利債務を確認する:リボ払いやカードローンの金利負担があるなら、投資より返済を優先する
  2. 生活防衛資金を確保する:失業、病気、修理が起きても投資を売らずに済む預貯金を持つ
  3. 近い将来の支出を分ける:学費、引っ越し、車検、住宅購入など数年以内に使う資金は投資と分ける
  4. 毎月の余剰資金を測る:収入から生活費・臨時支出・貯蓄を引いた後の金額を確認する
  5. 商品を確認する:投資対象、分散範囲、信託報酬、為替、値動きを比べる
  6. 少額で始める:下落しても生活と気持ちを維持できる金額から積み立てる

高額ローンと投資、副業、自己投資の順番については、ローンを組んで投資は本当に得かも参考にしてください。

毎月いくら積み立てるべきかに正解はない

最適な積立額は、年齢や年収だけでは決まりません。生活費、近い将来の支出、預貯金、収入の安定性、家族構成、住宅費、借入れ、投資期間、値下がりへの耐性で変わります。

大切なのは、相場が下がったときにも生活を維持でき、安値で強制的に売らずに済む金額にすることです。

月10万円を数か月でやめるより、月5,000円や1万円でも、家計に無理のない金額を長期間続けられる方が、つみたて投資枠の考え方には合います。収入が増え、生活防衛資金が厚くなった後で積立額を上げても遅くありません。

政府が推すNISAは結局得なのか

制度としては得です。投資で利益が出た場合に、原則20.315%の税負担を避けられるため、税制上のメリットは明確です。

しかし、NISAを使えば必ず資産が増えるわけではありません。損をするかどうかは、NISA制度ではなく、購入した商品、購入価格、手数料、投資期間、分散状況、為替、市場環境、値下がり時の行動によって決まります。

NISAは「投資をする人に有利な税制」であって、「投資すれば得をする制度」ではありません。

政府が推していることは、制度を知るきっかけにはなります。しかし、投資商品を選ぶ根拠にはなりません。使うかどうかは、政府の宣伝ではなく、そのお金をいつ使うのか、どの程度の値下がりに耐えられるのか、何へ投資するのかを確認して決めます。

今日やること

  1. 毎月の生活費と、数年以内に使う予定のお金を書き出す
  2. 生活防衛資金と高金利債務を確認する
  3. 下落しても生活費のために売らずに済む積立額を決める
  4. 候補商品の投資地域、資産、信託報酬、為替リスクを比べる
  5. 金融庁の対象商品一覧で、つみたて投資枠の対象か確認する
  6. 年120万円や総枠1,800万円を埋めることを目的にしない
  7. 少額から始め、家計や収入が変わったら積立額を見直す

よくある質問

NISA口座を作るだけで費用はかかりますか

NISA口座の開設・管理手数料を無料としている金融機関が一般的です。ただし、投資信託の信託報酬、売買手数料、為替関連費用などは別に確認が必要です。同じ商品でも取扱商品やサービスは金融機関によって異なります。

積立は途中で止められますか

通常、積立設定は変更や停止が可能です。保有商品を売却することもできます。売却した商品の取得金額分は、翌年以降に非課税保有限度額として再利用できます。ただし、売却による損失が消えたり、その年の年間投資枠が復活したりするわけではありません。

元本保証はありますか

ありません。つみたて投資枠の対象商品でも、株価、債券価格、為替などの変動により元本割れする可能性があります。

全世界株式と米国株式のどちらがよいですか

一律の正解はありません。投資対象の分散範囲、特定国への集中度、値動き、手数料、投資期間、本人が保有を継続できるかで判断が変わります。「過去によく上がった」という理由だけで選ばないことが重要です。

非課税枠は早く埋めた方が得ですか

必ずしもそうではありません。早く投資すれば運用期間を長く取れますが、短期間に大きな金額を投資すれば、直後の下落による影響も大きくなります。非課税枠より、家計、投資期間、リスク許容度を優先してください。

公式情報

制度・情報確認日:2026年8月8日。この記事は現行NISA制度と公的資料を基にした一般的な解説です。税制、対象商品、年齢要件、金融機関の取扱いは変更される可能性があります。特定の商品、金融機関、投資方法を推奨するものではありません。投資には元本割れの可能性があります。利用前に金融庁、国税庁、利用する金融機関の商品説明、手数料、リスク、最新制度を確認してください。