個人で事業を始めると、「まず開業届を出せばよい」と考えがちです。しかし、期限を逃したときの影響が大きいのは、青色申告の承認申請や、家族・従業員へ給与を払う場合の届出です。インボイス登録も、取引先に求められたからという理由だけで決めると、消費税の申告・納付が想定外の負担になることがあります。
この記事では、個人事業として起業した人が、開業初日から何を記録し、どの手続きをいつ検討するかを順番に整理します。
まだ個人事業主と法人のどちらで始めるか決めていない場合は、先に個人事業主と法人を選ぶ7つの基準を確認してください。
今日やること
- 実際の開業日と事業内容を決めて記録する
- 事業用の口座・カード・会計記録を生活用と分ける
- 青色申告承認申請書の期限をカレンダーへ入れる
- 給与を払う人がいるか確認する
- 取引先がインボイスを必要とするか聞く
- 税務署以外の許認可・自治体・社会保険手続も洗い出す
開業日はいつにする?
開業日は、単に思いついた日ではなく、継続して事業を始めた実態に合う日を決めます。店舗の営業開始、業務受託の開始、販売サイトの公開、事業設備の使用開始などを基に判断します。
開業前に払った市場調査、広告、備品、打合せなどの費用も、内容によっては開業費や資産、必要経費として整理できる場合があります。領収書、請求書、契約書、支払目的を捨てずに保存してください。
開業届の提出期限
2026年時点で、個人事業の開業・廃業等届出書は、事業を開始した年分の所得税の確定申告期限までに提出する扱いです。以前の「開業から1か月以内」という情報が残っているサイトもあるため、現在の国税庁案内を確認してください。
提出期限に余裕があるとしても、屋号付き口座、融資、補助金、保育、賃貸契約などで開業を示す書類を求められることがあります。必要な場面を確認し、早めに提出して控えを保存します。
青色申告は別の申請が必要
開業届を出しただけでは青色申告になりません。青色申告を利用するには、所得税の青色申告承認申請書を提出します。
- 原則:青色申告を始めたい年の3月15日まで
- その年の1月16日以後に新規開業:開業日から2か月以内
開業届の期限より青色申告の期限が先に来ることがあります。「確定申告のときにまとめて出せばよい」と待つと、その年は青色申告を使えない可能性があります。
青色申告で必要になる帳簿
青色申告では、売上、仕入、経費、現金、預金、売掛金、買掛金、固定資産などを帳簿へ記録します。控除額や特例を利用するには、複式簿記、貸借対照表・損益計算書、期限内申告、e-Tax等の要件が関係します。
会計ソフトを導入しても、口座とカードを私生活と共用すると仕訳が増え、誤りも起きやすくなります。少なくとも次を分けて管理します。
- 事業専用の預金口座
- 事業専用のクレジットカード・決済手段
- 請求書・領収書・契約書の保存場所
- 現金売上と現金経費の記録
- 在庫・備品・パソコン・車両などの台帳
家族へ給与を払うとき
青色申告者が、生計を一にする配偶者や親族へ事業専従者給与を払い、必要経費に算入したい場合は、青色事業専従者給与に関する届出書を期限までに提出します。金額は、仕事の内容、従事時間、他の従業員との比較などから相当である必要があります。
家族へ自由にお金を渡し、後から全額を給与として経費にすることはできません。職務、勤務日、給与額、支払記録を残してください。
従業員へ給与を払うとき
従業員を雇う場合は、給与支払事務所等の開設届出、源泉所得税、年末調整、労働保険、雇用保険、社会保険などを確認します。外注と雇用は、契約書の名称ではなく、指揮命令、勤務時間、仕事の進め方、報酬の性質など実態で判断されます。
インボイス登録は任意だが影響が大きい
適格請求書(インボイス)を発行するには、適格請求書発行事業者の登録が必要です。登録すると、原則として課税事業者となり、消費税の申告・納付が必要になります。
免税事業者が経過措置を使ってインボイス発行事業者の登録を受けた場合は、2023年10月1日を含む課税期間中に登録した場合を除き、登録を取りやめても、登録開始日以後2年を経過する日の属する課税期間までは免税事業者に戻れず、消費税の申告が必要です。個人事業者については、要件を満たせば2026年分まで2割特例、2027年分・2028年分は3割特例を利用できる場合があります。登録前に、売上へ消費税相当額を上乗せできるか、仕入・経費の税額、経理負担、取引先の要望を試算してください。
インボイスを登録するか判断する質問
- 主な顧客は一般消費者か、課税事業者か
- 取引先はインボイスがないと契約しないのか
- 販売価格を税込みで維持した場合、利益は残るか
- 仕入や設備投資で支払う消費税はいくらか
- 簡易課税や経過措置の対象を税理士・税務署へ確認したか
- 登録番号を氏名・名称とともに公表する影響を理解したか
取引先から「登録してください」と言われた場合も、契約条件と価格交渉を確認します。登録しないことだけを理由とする一方的な取引条件の変更には、独占禁止法や、2026年1月1日に旧下請法から名称変更・改正施行された中小受託取引適正化法(取適法)、フリーランス法などの観点が関係する場合があります。
税務署以外の手続もある
- 都道府県税事務所・市区町村への事業開始申告
- 保健所、警察、運輸局、都道府県などの許認可
- 労働基準監督署・ハローワークの労働保険手続
- 年金事務所の社会保険手続
- 賃貸物件で事業利用できるかの確認
- 屋号、商標、ドメイン、個人情報保護の確認
届出先と期限は、所在地・業種・従業員の有無で異なります。税務手続だけで営業を始められるとは限りません。
開業初月のチェックリスト
- 売上・経費・開業前費用を日付順に入力した
- 請求書の番号と入金予定日を管理した
- 青色申告承認申請の期限を確認した
- 現金残高と帳簿が一致している
- インボイス登録の損益を試算した
- 税金・社会保険用の資金を売上から分けた
まとめ
個人で起業したら、開業届より先に青色申告の期限が来ないかを確認します。事業用のお金と生活費を分け、開業初日から帳簿と証拠を残してください。
インボイス登録は、登録番号を得るだけの手続ではありません。消費税の申告・納付、価格、取引先、経理負担まで試算して決めます。
公式情報
- 国税庁:開業する場合
- 国税庁:個人事業の開業・廃業等届出手続
- 国税庁:所得税の青色申告承認申請手続
- 国税庁:青色事業専従者給与に関する届出手続
- 国税庁:インボイス制度について
- 国税庁:インボイス発行事業者登録申請手続
- 国税庁:令和8年度税制改正特集(インボイス制度)
- 公正取引委員会:免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A
公式情報確認日:2026年8月8日
次回確認予定:2026年10月1日
税務、消費税、自治体への届出、許認可は事業内容と所在地で異なります。